演技が上手い役者とは?(続)
前回の記事⬇︎
「その人の主観であり、測定基準はない」
という答えを出しましたが、自分の意見を書かずに終わらせてしまったので追記をします。私が思う演技が上手い役者の条件は・・・
「周囲の役者を活かす演技ができる役者」
だと考えています。
私が常日頃から演技指導の際に
「次に台詞がある人に、いいパスを渡せ!!」
と言い続けています。厳密に言えば台詞がない役でもリアクションでこれができることが望ましいです。
どういうことなのか・・・?
多くの作品は人間が2人以上登場します。(一人芝居や独白については別記事で熱く語ります)お互いが自分勝手に各々のプランで台詞を喋られると、見ていて「このシーンは何をしているのだろう?」「結局なにが言いたいの?」と困惑させらます。
役者を仕事にしたいと志す人で、人前に出たくないと思う人間はあまりいないと思いますので、自己主張をしてしまうのは自然な現象なのですが、役者がするべきことは、そのシーンの目的をお客さんに伝えることです。ここを勘違いしている人が物凄く多く見受けられます。
シーンを成立させるには、そのシーンに適した会話が求められます。どうしたら、このシーンの目的を達成するための自然な会話ができるのだろうか? 相手を怒らせるシーンでどんな台詞でパスを渡したら相手が激怒するだろうか? を考えることが重要です。
私が役者として尊敬する大竹しのぶさんには、こんな伝説が・・・
とある舞台の現場で主役の若手役者(男性)と大竹しのぶさんが会話をするシーンがありました。しかし、若手役者は演出家の要求に応えることができず、何度もそのシーンの稽古が続きました。やがて演出家が稽古を中断し、稽古場は仕切り直すために休憩となります。
若手役者は休憩の間も演出家と演技について話す時間になり「もっとこうしてほしい」などの要求を受けています。大竹さんは、ケータリングのおかしをつまみ、しっかり休憩をとっています。時間はあっという間に過ぎ、若手役者は休憩時間をとれずに稽古が同じシーンから再開されました。すると・・・先ほどとは見違えるような素晴らしい演技が繰り広げられ、そのシーンの稽古は終わりました。一体なにがおきたのか?
文章で読むと、若手役者が演出家の要求を理解し、それに応えた話のように感じるかと思いますが、これには大竹さんの役者としての技量が隠されていたのです。
休憩中に演出家と若手役者の会話をおかしを食べながらも大竹さんは聞いていたのです。そして再開されるまでの数分間で若手役者が演出家の要求通りに芝居ができるように演技を変えたのです。この稽古場のスタッフさんから聞いた話なのですが、私もその瞬間に居合わせたかった・・・
これが「周囲の役者を活かす演技ができる役者」の良い例だと思います。
前にも記載しましたが、これは私が考える「演技が上手い役者」であり、他の演出家や演技指導者は違うことを重視するでしょう。どんな演出家や演技指導者でも同じことを要求するのであれば、役者にとって優しい世界で、同じような作品で溢れてしまいます。行く現場、行く現場で求められるものが違い、それに対応できるのがプロの役者ですよね。
参考までにということで・・・
次回は、前回の最後に出した宿題に関した記事を書きます。しっかりと、やってくるように!!
CO-2N